Conceptual diagram
稲見研究室は、教育ー研究ー社会実装という3つの柱がより良く循環するような活動に重点を置いています。運動やスポーツ科学を通じた教育の中で生じた課題や疑問を研究で解決・公開し、最新の知見として再度教育へと戻すことで教室の質を高め、当該領域における社会実装へと繋げていきたいと考えています。
体育研究所が実施するスポーツサイエンスラボや、大学院健康マネジメント研究科にて教育の機会があり、常に最新の情報にupdateされます。そのための研究として、”研究室や臨床施設内等で行う基礎的な実験”と”スポーツ競技や臨床現場へ還元させる研究”のオーバーラップする分野、あるいはそれらのbridge the gapを橋渡し可能な(非侵襲的な)研究手法を用いて領域のパラダイムを大きく変化させ、社会実装へと接続できる研究スタイルを目指しています。
Research Style
研究室が取り組む研究の一例をご紹介いたします。ヒト骨格筋特性やコンディション/リカバリーの定量的評価を通じた『見える化』によるスポーツパフォーマンスやヘルスプロモーションの向上/改善を目指したプロジェクトでは、3つの柱を念頭に置き研究を推進しています。その他にも、研究室の特性を活かした多くの研究を実施しています。詳しくはこちらをご覧ください。
■Muscle -Bio- property
超音波画像診断装置を使用して、骨格筋の構造および質の変化を定量化しています。下の図は、超音波エラストグラフィ機能を用いて、骨格筋の硬い・やわらかいといった情報を解析する際の画像の一例です。こうした筋の硬さに関する画像解析に力を入れていますが、触診など手で押し込むことを示す硬さ(hardness)と、伸ばした際の硬さ(stiffness)には明確に違いがあるため、研究室では目的に応じてそれらを区別した上で実験に取り組みます。この領域の研究を30年行う村山光義教授とも連携しながら骨格筋の機能・形態・質に関する特性の解明に挑戦しています。
■Chemistry
血液、唾液、尿中に遊離する筋タンパクや炎症物質、ホルモン、酵素などを用いて骨格筋成長時または損傷時における生化学的な変化を定量化しています。これは、骨格筋の構造変化をもたらした機序背景を解明することに優れた手法で、研究室では特に、サルコメア構成タンパクのタイチンを指標に骨格筋特性やパフォーマンスとの関連を検証しています。上記shear wave elastographyとの関係性について調査が進んでいます(論文1・2)。
■Muscle mechanics
アスリートのハイパフォーマンスを主に骨格筋に焦点を置き多角的に捉える方法の一つとして、スポーツ動作中の選手の関節角度や速度などキネマティクスとしての評価や、それらの原因となる力やエネルギーなどのキネティクスの評価を行っています。地面反力計や3次元動作解析装置等を使用して、生体の動きまたはそれらに働く「力」とその相互作用を定量化するという手法です。こうした手法は、運動による骨格筋の構造および生化学的な変化が生じた原因となる実質的負荷を解明することに優れた手法となります。
また、時には他研究室との共同研究の知見により位置情報/空間情報を用いたセンシング技術や、理学療法の視点を基盤とした運動指導(処方)を用いて研究を推進しています。
Example -1
■動作解析
パフォーマンスを見える化することに向いている解析で、ゴルフやテニス、ランニング、フェンシング、アーチェリー、剣道、ブレイブボードなど様々な競技種目を対象に測定を行っています。3次元動作解析のみならず、一例ではハイスピードカメラと筋電図を組み合わせた解析(以下の図をご参照ください)など、目的と課題を明確にした上で装置を選定し、動作のクセや筋肉が収縮し始めるタイミングを見える化しています。研究のための実験というよりは、スポーツ競技の現場の知見をよりラボ実験へ取り入れるためのフレームワークをとても大切に考えています。
Example -2
■走能力解析
50mや100mが速いのか、初速が速いのか、後半が速いのか。走能力も様々です。大学発ベンチャーとして連携するS-CADE.光電管を利用する走能力解析では、事前に設定した任意区間の速度が瞬時にタブレット端末にグラフ化して表示されます。陸上競技のみならず、野球でも利用しています。
Example -3
■F-V Profile
より強い力を出せるようにするために、あるいは、より速度を高めるために、今の身体からの出力がどういったプロファイリングになっているのかを確認する必要があります。研究室ではF-V Profileを今後のトレーニング計画に向けた方針を選択する羅針盤として利用しており、その後のvelocity based training(VBT)等に役立てます。